会話デッキの構築 Rev.1

明日から、地獄の10日間が始まる。

同期入社が集まって一週間に渡る研修を行い、その間に懇親会が4回ある。あと、来週の土曜に大学時代の友人と久々に会う。

大学時代の友人と会うのは別に地獄ではないので、正確には地獄の一週間になるんだけど、なんか10日間の方がキリが良かった。まあ大きく括れば同じ悩みが立ちはだかることになるし。

 

その悩みとは、話すことがないということだ。な〜んもない。そして、同期の近況にも特に興味があるわけでもない。別に険悪な仲だったわけではないけど、そこそこ仲が良かったわけでもないし、そもそも2-3ヶ月くらいしか一緒にいなかった人達だ。

はっきり言えばどうでもいい。そして多分、向こうも同じだろう。誰も俺には興味がないし、俺も特には興味ない。そんな人達との懇親会が4回ある。なにをそんなに懇親することがあるんだよ。これを地獄と言わずに何と言う。

あと、研修自体も面倒だ。職場も職種も違う奴ら集めて何を話すんだ。どうせうっす〜い内容だろ。新入社員研修もそんなだったもんな。あの頃に学んだこと、何一つ今の職場で役立ってないぞ。

 

脱線しました。

とにかく、話すことがない。特に、近況について話すことがない。これは、大学時代の友人と会うときにもついてくる悩みだ。

別に仕事でドラマティックなことが起きたわけでもないし、かといってプライベートでドラスティックなことが起きたわけでもない。特に波風のない穏やかな人生を心がけているので、話の種になるようなことがなにもないのだ。

それなのに、懇親会ではそれを求められる。「最近どう?」と、たった6文字で僕を刺してくる。なにが「最近どう?」だ。なんもないわ。ゴロゴロしてテレビとか動画とか見て、あとは寝てるだけだ。そんな話を聞きたいのか?もう首からそれ書いて下げておこうか?

 

まあ、そんなことも言ってられない。懇親会はもう予約されているし、首に紙をぶら下げて懇親会に行くほど度胸があるわけでもない。

だから、今のうちに会話デッキを構築しておこう。とりあえず話を繋げられるような適当なやつを、2,3個用意しておこう。

 

 

そうだなあ、まずは明朝体についてとかいいかもしれない。

明朝体って横画が細いじゃないですか。細いやつはもうそれはそれはほっそくなってるじゃないですか。

あれってもしかしたら横画無くても読めるやつは読めると思いません?縦と斜めの部分、あと止めの部分さえあれば字として読めるとは思いませんか?なんとなく判断できそうな気がするんですよね。」

 

とりあえず、これで1つ凌げる。あとは、ぐうの音についての話もいける。

「『ぐうの音も出ない』って言うじゃないですか。もう全く反論とか弁解とかできないときの様子を表す言葉なんですけど、この『ぐう』っていうのは息が詰まったときの音を表しているらしいんですよ。

だとしたら逆に、『ぐうの音は出る』っていう状況もあるわけですよね。反論とか弁解をしようとして、息が詰まってしまったときのことでしょうね。

むしろ、『ぐうの音も出ない』という言い回しからすると、ぐうの音が出る方が一般的な感じしますよね。つまり、ぐうの音はありふれているはずなんです。

ではこのぐうの音、あなたは聞いたことありますか?」

 

よし、これで2ついけたぞ。念のためもう1個、部屋干しについてもストックしておくか。

「僕は日照時間が短いこの時期とか、あとは梅雨の時期とか、そうでなくても雨の日とか、結構洗濯物を部屋干しするんですよ。天気を気にしなくてもいいので便利なんですけど、やっぱり外干しと比べると乾くのに時間がかかってしまうんですね。

でも、早く乾かしたいときってたまにあるじゃないですか。そういうときは浴室乾燥を使うんです。普段は電気代がかかるし、干すスペースが限られているのであんまり使わないんですけど、緊急時にはやっぱりあると便利です。最悪浴室乾燥があるな、という気持ちでいられます。

話はちょっと変わるんですが、ドラマとかでよくすっごい高級な家が出てくるじゃないですか。なんというか、和風な感じで鯉がいる池があるような広い庭があって、政治家の先生とかが住んでるような家です。

ああいう家って浴室乾燥とかあるんですかね。なんかなさそうじゃないですか?あんまりイメージがつきません。晴れた日はお手伝いさんが庭に干してるのはイメージできるんですけど、雨が続く日とかってどうしてるんでしょう。どうしてると思います?」

 

よし。これでなんとか凌げるだろう。

もし今後数日の間に、この話をしてくる人がいたら声をかけてみてください。

僕はキョトンとした顔で、「何を言ってるんですか?」って返します。