この世界に感謝を

ほとんど車通りのない道で、街灯だけが流れていく。その景色を眺めていると、様々な感情が浮かんでは消えていく。怒り、安堵、後悔……。そして家に辿り着いたとき、残ったのは感謝の感情だった。

日付が変わる直前、23時50分に自宅からおよそ10km離れた駅に到着した。そこから最寄り駅までの終電は23時30分。この20分を埋める時刻表トリックは持ち合わせていなかった。そして、そんな私に残りの道を歩く体力は残っていなかった。いや、体力は振り絞ればどうにかなったかもしれない。むしろ気力が残っていなかった。これだけは言い訳させてほしい。だって昼間に15-6km歩いてるだ。ここから真夜中に+10はしんどい。

そして泣く泣くタクシーに乗り込んだ。タクシーに乗っている間、グングンと上がっていくメーターを見ながらまず湧いてきた感情は怒りだった。何に対する怒りなのか。終電を逃した自分か、それとも時間が早い終電か、あるいはどんどん上がっていくタクシー料金に対してか。

そんなやり場のない怒りをどうにかしてやり過ごしたあと、少しだけ安堵の時が訪れた。まあ何にせよ、家に帰ることはできる。布団で眠ることができるという安堵。

しかし、その安堵もすぐどこかへ行ってしまい、後悔の念が現れた。電車で行けばたった2-300円のところをとんでもない金額出してしまっている、どこかホテル、せめてネカフェかなんかに泊まった方がよかったのではないか。そもそも歩いて2,3時間の距離なら歩いた方がよかったのではないか。

もちろん、どの選択肢を選んでも待っているのは地獄だ。GWの真っ只中の深夜に泊まれるホテルなんて中々見つかることはないだろうし、ネカフェで寝たらちゃんとした睡眠が取れない体質であることは十分理解している。そして、深夜に数時間歩くという行程がどれほどしんどいものなのか、想像に難くない。終電を逃した時点で、どのみちに向かっても地獄であることは決定していた。地獄の中からマシな地獄を選ぶ作業でしかなかった。

そして、すべての感情からとき解されたあと、残ったのは感謝であった。家に帰れたことに感謝を、タクシーに乗るという経験をさせてくれたことに感謝を、終電を逃すとどうなるかを知れたことに感謝を、そしてこの世界の全てに感謝を。すべては経験と勉強だ。このタクシー代5000円は勉強代なのだ。宿泊費+勉強代で5000円なら割安だ。貴重な経験を得ることができた。感謝してもしきれない。

 

 

そう思わなきゃやってけねえよ。