知らない景色

僕は今、アパートの1階に住んでいる。昔から集合住宅では1階にしか住んだことがない気がする。

防犯上良くないような気もするが、部屋を探していたときに1階しか空いてなかったから仕方がない。あと、朝晩に階段やエレベーターを使わなくていいというのも楽っちゃあ楽。

 

そんなことは置いといて、とにかく1階に住んでいる。そして、集合住宅なのでもちろん上のフロアがある。この上のフロアからの景色を、僕は知らない。

当然といえば当然である。2階や3階に住んでいるわけでもなければ、知り合いがいるわけでもないので、行く用事なんてない。そこからの景色を見たことがなくて当たり前である。

だからこそ見てみたい。自分が知らない景色というものは、見てみたいものだ。

 

ただ、見る手段がない。今更上の階に挨拶に行くのも変だし、用もなくうろつくのもおかしい。万が一上の階の住人に見られたら、白い目で見られることは間違いない。

かといって、間違って来ちゃいましたと装うこともできない。3階の住人が間違って2階に来ちゃった、なら分かる。ワンフロア間違えたんだなあと納得できる。

でも、1階の住人にはそれができない。だって階段を上がることがないんだもん。普段階段を使わない奴が、間違って階段を上がってしまったなんてことはまず起こらない。合理的な理由が無いと許されない行為だ。

加えて、見たことがなくても景色の想像はなんとなくできる。だって見える範囲はある程度一緒だし。普段見ている景色と似ていて、でもちょっと高さが違くて違和感ありますね〜くらいに落ち着くだろうことは容易に想像できる。

 

そうだとしても、見てみたい。そのちょっとした違和感を確かめてみたい。誰にも気付かれないような真夜中にこっそり行ってみようかな。でも、それで見つかったら本格的に不審者だ。